余命2ヶ月の男が戦場に行く話(中編)

10月5日の私へ

私はこのブログを10月15日に書いている 

 

君(私)は私の安否を案じていたが

今の私の状態が生きていると言うのならば

私は無事だ

 

しかし君(私)がこれから体験するのは

人生において最も長く

人生において最も大切な連休だ

…というのは冗談であるが

 

20代最後に相応しい旅行だったことは保障しよう

 

 

ちょうど1週間前の土曜日

君(私)は漢の闘いに赴くことになる

 

あの日以降、私を見た人々は

口を揃えてこう話しかけてくる

 

「アヤタカさん!マジで1人でディズニーに

行ったんすか!?」

「流石にネタっすよね!?」

 

まるで歴戦の英雄に

「あの難攻不落の地に1人で挑んだのか!?」

「あの化け物に単騎で!」と伝説を確認するように

 

その人々に私がどのように語ったのか

 

今ここで君(私)にも教えよう

 

10日後の私より

 

 

 

 

 

決戦前夜

 

 

このクソ野郎のせいで

10月7日の関東は豪雨であった

 

劈く雨音が私の孤独を

あざ笑っているかのようだ

 

しかし私は雨にも負けず風にも負けない

 

そんなものであこがれは止められない

 

今の時期のディズニーはハロウィン期間だという

 

土曜日のハロウィンディズニーシー

まさにサタデーナイトフィーバーである

 

雨が降ろうが風が吹こうが楽しまねば損というもの

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ということでこんなものを用意した

 

仮装OKとのことなのでハロウィンらしく

魔法使いの格好でこのディズニー満喫してみせよう

 

仮装を魔法使いにした理由に深い意味は無い

断じて無い

無いったら無い

 

 

 

 

さて、帽子と杖が手に入ったのは良いが

魔法使いにはやはり魔法のローブや

マントのようなものが欲しいところだ

 

それに呪文のようなものが記されていれば尚良い

 

 

ちなみに今回ディズニーに行くにあたって

1つルールを設けてある

 

それは待機中にこちらから隣の人に

声をかけたりナンパしたりしない

 

良い思い出を作りに夢の国に来ている方達が、

いきなり独りで遊園地に来てるヤベえ奴に

話しかけられたらどう思うだろう

 

何時間もアトラクション待ちしている状態で

そんな男とずっと会話しなければならない状況に

なったら、たまったものではないはずだ

 

ましてやそんな男がナンパなどしてきたら

夢の国はたちまち地獄と化してしまう

 

 

ナンパコンテストで優勝したことがあるという

友人から最強の魔法の合言葉を教えて

もらったが、これを使うことはないだろう

このチートコードを私が使用してしまうと

シーに来ている全ての女性は即オチし

全ての男性が私に嫉妬することになる 

 

そもそもプーさんのハニーハントはランドの方だ

 

そういうことで他の来場者のことも考えて

基本的にこちらから声をかけるのは禁止とした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ただし逆はその限りではない!

ということでこんなものを用意した

 

ある意味、呪いの文が書かれた

魔法使いのマントである

 

ディズニーの公式ページを確認すると

「スピーチ、ビラの配布はやめて下さい」と

書かれている

 

私は別にこれを配布する訳でもなければ、

こちらから声をかけるわけでもない

 

もちろん入場の時にスタッフさんに

確認するつもりだが

 

 

一応「逆ナンは流石に!?」

言われた時用に逆ナン可無しverも作ってある

準備に抜かりはない

 

これら全てを装備すると

 

 

 

 

 

 

 

 

「待ち合わせで来た時に他人のフリをしたくなる

ランキングNo.1」みたいな見た目の

29歳魔法使いの完成である

夢の国に1人で行ったはずなのに2人で出てこれる

魔法の装備の完成である  

 

サタデーナイト

正気の沙汰でー無い…

 

これで明日の戦いの対策は完璧だ

 

 

 

 

 

決戦当日

 

昨日の豪雨が嘘のように

私の初陣を祝福するように雨があがった

 

 

雨上がりのディズニー・シー

心なしか怪しげな雲模様も

相まって夢の国というよりは

古戦場のような雰囲気を醸しだしている

 

 

園内ではピノキオやゼベットじいさん

ジミニーやフェローが出迎えてくれた

 

しかし孤高な私にはどうしても

修羅の国の案内人みたいに映ってしまう

 

 

何?あんな完全武装して

やる気マンマンだった癖に

何を今更ビクついてるんだって?

 

あの武装はね

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というのは冗談であるが

 

スタッフさんに相談したところ

 

スタッフさん

「ゴメンなさい!時間かけてせっかく

作られたと思いますが広告になって

しまうのでちょっと駄目なんですよ💦

でも、これが無くても素敵な

出会いがあると思いますよ!

いってらっしゃいませ!」

とのことだった

 

哲学者・プラトン

「あなたの悲哀がいかに大きくても、

世間の同情を乞おうとしてはならない。

同情の中には軽蔑の念が

含まれているからだ」と言った

 

このスタッフさんの神対応

私はプラトンの姿が重なった気がした

 

ということで魔法のマントは

鞄にしまい、世間の同情を乞わず

正々堂々と戦場をかけ抜けることになった

 

ちにみにハッピーバースデーみたいな

襷をつけることもアウトらしい

 

誕生日にディズニーを考えている方は

気をつけよう

 

しかし、こちらから声をかけないという

自分ルールは未だ健在である

 

それはつまり、逆ナンされたいならば

言葉を発さずオーラのみで行わなければ

ならないということを意味していた

 

オーラのみで逆ナン…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

と言うのは簡単である

 

 

しかしここで無理というのは

イケメンのすることではない

 

 

オーラだけで逆ナンされてやらあ!

 

そうと決まれば目指すは

シューティングゲームが出来るという

トイストーリー・マニアだ

 

 

アトラクションの的も女性のハートも

射抜いてみせよう

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

トイストーリー・マニア

 

 

待機時間なんと200分

 

逆ナンなど容易い

 

私ほどの人間ならば1秒間に7回くらいは

逆ナンされるに違いない

 

そうタカを括っていたが、

いざ3時間待ちの待機列を

目にすると並んでる人々が

 

「こりゃあどうしてもオーラだけで

逆ナンしてもらおう」とでも言いたげな

プレッシャーを放っているように感じ、

悠長に構えていた私も

と慄いてしまう

 

正直ディズニーを舐めていた

 

このブログをここまで読んだ皆さんも

「お前は世の中を舐めすぎている」と

思っていることだろう

 

全くもってその通りだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが君たちも私のことを

舐めていたようだな?

 

私がただ独りで何もできぬまま

待機列で虚無の3時間を過ごすと

思っていたのか?

 

なんと本当にスタッフさんが言った通り

素敵な出会いがこのトイストーリー・マニアで

あったのだ

 

しかもその女性は一緒に写真撮影を

してくれることまで許可してくれた

 

 

 

 

 

とくとご覧あれ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待機列というのは試練の場だ

 

この試練の場が不思議なもので

 

母数2以上の集団はパートナーといかに

会話を弾ませるかに神経を使う試練を課されるが、

この母数が1になると途端に心の中に

もう1人の自分を描き己と心の対話をする

精神統一の試練へと早変わりする

 

つまるところ私は精神統一の試練をしていたわけだ

 

イマジナリーフレンドならぬ

イマジナリー彼女を心に投影して…

 

 

 

 

 

どうだ諸君

 

舐めていただろう?私のことを…

ここまでの馬鹿とは思わなかっただろう?

 

想像してごらん

 

ディズニー・シーの待機列で

上のクソコラを作っている

30歳手前の独身男を…

 

人間は極度の孤独に陥ると

このような意味不明な行動を起こすのだ

 

孤独…親にしかられて悲しいなんて

レベルじゃねーぞ

 

 

 

待機時間中に聴こえてくる園内の音楽は

来場者達を暖かく迎え気分を高揚させる

役割があるのだろうが、

私には百物語、皿屋敷、牡丹灯籠

といった怪談でも聞いているかの

ように逆に心細くなっていく

 

少しでもこの孤独を紛らせるため

スマホアプリでディズニー・シーの

ショーの申し込みをすることにした

 

フォロワーさんからビッグバンドビートが

素晴らしいとオススメされていたのだ

 

他にもジャンポリミッキーや

ハロウィンタイム・ウィズ・ユーなる

ショーも行われるという

 

大所帯でもあるまいし、ソロならば

流石に3つのうち1つくらいは抽選に

当たるだろう

 

それくらいの慈悲はあってもいいはずだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

心という器が軋み始めた時

アトラクションの順番がついに回ってきた

 

 

シューティングゲームではスコア152900

を叩き出すことができた

 

これはグループ内1位のスコアらしい

 

ちなみに他のグループはアベック、家族連れ

 

 

 

 

 

 

 

ソロは私のみ

 

 

 

 

 

 

 

勝負に負けて試合に勝った

 

そんなトイストーリー・マニアであった

 

 

果たして、この男に救いはあるのだろうか

 

後編へ続く